越後発の新技術「高圧技術」が世界を変える

「高圧処理」とは?

人類は300万年も前から、食品の調理・加工に熱(火)を利用してきました。しかし、熱は大量のエネルギーを消費し、食品の味・色・香りが変化したり、栄養素の破壊や有害物質を生成したりという問題を抱えていました。
そこで、熱と同様に独立した物質の状態変換因子である「圧力」(固体・液体・気体などの状態を変換する因子)を利用することで、熱を利用した場合とはまったく異なる食品加工が可能となるのです。 「熱」を右手、「圧力」を左手に例えると、21世紀になって、人類はようやく両手を使って食品を加工することが可能になったと言えるのです。

高圧処理は新しい食品加工法

「煮る・焼く・蒸す・炊く・燻す・熱する・・・」など、食品の調理に使う漢字には、「火」(ひへん)や「、、、、」(れっか)が用いられています。

圧力を使うことにより、食品の殺菌・変性・食感・消化性などに作用し、安心・安全・健康・高齢化や環境にも配慮した、食品の加工が可能になります。

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熱だけでは処理できなかった多くの問題が、高圧処理を導入することにより、解決できる場合があります。

高圧下の水

水はありふれた存在ですが、生命誕生の受け皿になった不思議な液体です。
ほとんどの食材・食品には水が含まれています。生米の水分は15.5%、お餅は43%、ご飯は60%、スイカに至っては、約90%が水分です。
生命現象に適合しない食品はありませんので、食品加工のためには水を知ることが重要です。
では、水の状態に及ぼす圧力の影響には、どのようなものがあるのでしょうか?
一般的に水は0℃で氷になり、100℃で沸騰します。
 しかしこれはあくまでも「1気圧」の下での現象です。
 例えば、気圧が低い高山では、水は100℃よりも低い温度で沸騰します。
 逆に水に圧力をかけていくと、どうなるでしょうか?
下の図は、縦軸に温度、横軸に圧力を取った、水の相図です。

-20℃の氷(個体)は、2000気圧のもとでは水(液体)として存在し、100℃の蒸気(気体)でも23,000気圧では氷(個体)になることを示しています。圧力は、熱と同様に独立した状態変換因子なのです。

高圧処理をした卵と加熱処理をした卵の比較

高圧処理とは、食品の加工に1,000気圧以上の高い圧力(等方的な静水圧)を利用する技術です。

身近な食材である卵を高圧処理するとどうなるでしょうか?

生卵に高圧を加えた場合、卵の内側からも外側と同じ、均等な反力が加わるため、卵が割れることはありません。

それでは、卵の中身を見てみましょう。


(a)生卵

高圧処理 加熱処理

(b)4000気圧 × 10分(常温)


(c)63℃ × 10分

液状の生卵(a)に4000気圧の圧力をかけた卵(b)と63℃のお湯で加熱した卵を比較すると、圧力卵(b)は黄身が固まって白身は液状のままです。一方、加熱卵(c)は、黄身が液体のままで白身が固まっていることから、熱と圧力では卵のタンパク質が異なる変性を示すことがわかります。

(d)7000気圧 × 10分(常温)


(e)100℃ × 10分

さらに7000気圧という高い圧力をかけた卵(d)と100℃で加熱した卵(e)を比較すると、圧力卵(d)は白身まで固まり、見た目はゆで卵のようになっています。加熱卵(e)は一般的なゆで卵です
  • ・色の変化 白身部分は区別がつきませんが、高圧卵の黄身は鮮やかで、ゆで卵のように白くなっていません。
  • ・香り・味の変化 ゆで卵は独特な硫黄臭がありますが、高圧卵にそれは無く、生卵の香りのままです。
  • ・食感の変化 噛んでみると歯触り、舌触りが異なっており、ゆで卵の黄身はボロボロと崩れる感じがするのに対して、高圧卵はなめらかで腰があり、指で押しつぶそうとしても崩れません。
  • ・味の変化 高圧卵の味は生卵のままです。
  • ・消化性 プロテアーゼを用いる人工消化試験によると、ゆで卵に比べて消化性は良いと報告されています。
  • ・ビタミンの損失 化学分析によりビタミンの損失が無いと報告されています。

卵の比較から、食品の風味や栄養価を損なわない、加熱に代わる新しい食品加工法としての圧力利用の可能性が示唆されます。